2013/04/09

英国の名作映画でサッチャー政権を振り返る 




というわけで、サッチャー元首相がお亡くなりになったというニュースは、ものすごい勢いで世界中を駆け巡り、それぞれの思いを語っております。その多くは決して元首相の業績を讃えたり、別れを惜しむ種類のものではありませんが、彼女がイギリス社会に与えた影響はよくも悪くもあまりにも大きなものであったことは事実です。

この日を記念する意味で、今回、サッチャー政権、サッチャー主義があったからこそ生まれた英国の名作映画をいくつかご紹介したいと思います。(思い浮かんだ作品のため、追加する可能性大です!)GeekyGuidestoEnglishでも近々、セリフをご紹介しながらしっかりとした記事を作成できたらな、と思っています。

リフ・ラフ (ケン・ローチ監督)

タイトルを見ただけで、目頭が熱くなる作品です。ロバート・カーライル主演。胸が痛くなるようなラブストーリーのなかに、サッチャー政権下による相次ぐ国営産業の私営化と、自由主義、資本主義の推進により、持つ者と持たざる者の格差がどんどん広がるなか、労働者階級の低所得層の人々の生活を如実に描いています。

リトル・ダンサー(スティブン・ダルドリー監督)

リー・ホール脚本の名作であり、ジェイミー・ベルのデビュー作。 サッチャー政権により炭鉱がどんどん閉鎖され、職を失う炭鉱夫たちが激しく抵抗する、あの時代の話です。母を亡くし、炭鉱夫の父と兄を持つ少年ビリーが、バレエに魅せられてバレエをこっそり習い始めるのだけれど……。サッチャー政権により押しつぶされ、流され変わらざるをえないやるせなさ、怒り、せつなさ、といった炭鉱夫たちの思いと、父と子の関係を含む家族の物語に見事なまでにオーバーラップさせながら、描いた不朽の名作ですね。

トレインスポッティング (ダニー・ボイル監督)

 スコットランドを舞台にしたドラッグ青春映画だけでは終らない、今も戦後英国の名作映画としてイギリスで必ず上位ランクインする理由は、この映画が原作に忠実に、サッチャー政権が持たざる者へもたらした残酷な現実をしっかりと描いているからです。サッチャー政権下、私営化が進み、国営産業は片っ端から潰された結果、多くの人が職を失いました。収入金額丸無視で、1人あたりみな同じように税金を払うというPoll Tax (Community Charge)が導入されました。(サッチャー政権が終ってから廃止になりましたが)
 国の管理がなくなり、誰もが自由になる、そして誰もが夢を掴める=”未来を選べる”(choose your life) 世の中に、というのは、まやかしでしかない、そしてどうにも改善されない現実と向き合うしかない。しかしその現実に向き合ったままで生きて行くなんて、やってられない。唯一救ってくれるのは、ヘロインだけ……。

未来を選べーーーこのキャッチは、究極の皮肉がこもったspoofです。

フル・モンティ (ピーター・カッタネチオ監督)



こちらもロバート・カーライル主演。かつては鉄鋼業で栄えたシェフィールドを舞台に、
鉄鋼業の縮小化により解雇された男性たちが、いっちょストリッパーとなって一儲けしようとするハートウォーミングコメディですね。キツイ社会派的な描写はないですが、非常に胸が痛くなります。

マイ・ビューティフル・ランドレット (スティーヴン・フリアーズ監督)

ダニエル・ディ・ルイス主演。英国の人気作家ハニフ・クレイシの原作を映画化したものです。アジア人第2世代の若者が"In this damn country, which we hate and love, you can get anything you want."とコインランドリーのお店を営むなかで、人種差別問題や格差社会をじっくり描く、Sフリアーズ節炸裂の映画です。

This is England (シエーン・メドウズ監督)

 
英国が生んだ伝説のヒーローバンドの一組であるザ・ストーン・ローゼズのドキュメンタリー映画を6月公開ということでも話題の監督であるシェーン・メドウズが、自分の過去の経験を基盤に描いたとされる、80年代のミッドランド地域の若者とネオナチの話です。 サッチャー政権がもたらした英国への誇り”British Empire”スピリッツは、一層深刻化する格差社会と不協和音をおこし、持たざる者が「持たざる者なのは、移民たちが職を奪っているせい」「大英帝国にあやかろうとやってきたずうずうしいよそ者たちが、なぜデカイ顔をする。アイツらをぶっつぶせ」という考えを育みます。この作品および、英国で放送されていたドラマThis is England 88は、ほんとうに涙なしには観れない作品です。

Made in Britain (アラン・クラーク監督)

ティム・ロスのメジャー映画デビュー作です。16歳の少年が持つ体制/仕組み/社会に対する激しい怒りが赤裸裸に描かれている作品です。サッチャー政権は私営化、個人主義の推進により、階級社会をざっくり基盤にしたアイデンティティ意識やコミュニティー社会(us vs them)を破壊していくのですが、この個人主義の副産物として生まれたのが、自分だけよければいい、自分だけのよかれ主義な傾向だと言われています。ティム・ロス扮する少年がこの新しい価値観を如実に映し出しているのではないでしょうか。


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