いままで複数のマクベスを観てきましたが、いつも自分的に一番の焦点は、自分にとって、なぜマクベス夫妻があのような行動にでて、その後あのような末路を行くのかが、合点がいくかいかないか、になっています。そりゃーマクベスが制作された昔のブリテン諸島では、人々は宗教が背骨であり肉であり、あらゆるsuperstitionsが日常生活とリアル混在していた時代ですから、魔女が出て来て、魔女のお告げで王様殺したことをきっかけに、身も心も狂っちゃう、という展開で合点は行くでしょう。しかし、現在制作されるマクベスがそれでは、シェイクスピア劇が時を超えて世界中の人々に「過去の産物」ではなく「今も生きるストーリー」として愛され続けるかの証明にはならない。時を超えて、そして国境と宗教を超えても共有する人間関係、人間心理、良心、邪心がどのように関わることで、マクベスのストーリーをリアルにみせてくれるのか。いつもしつこくお断りをしていますが、私はシェイクスピアリアンではないので専門的なことはまったくもってわかりません。いつもそんな超ミクロな観点で楽しんでいます。
そして今回、10月2日より英国公開されたマイケル・ファスベンダーさんinマクベスを観ました。
すごく!面白かったです! なぜマクベス夫妻が”ああなって””こうなった”のか、すごーく納得行くようにきちんと描かれてくれていました。すごく、納得が行きました。その理由と思われる点を以下、箇条書きにしています。
**いくつか、斬新な演出や展開があり、本当はそうしたところが(特にラスト!)「もう一回観てしっかり考えたいかも…」と思っている理由なのですが、書いちゃうとネタバレになっちゃう気もして、書くべきか書かざるべきか悩んでます。
① マクベスの言動に合点がいった大きな理由の一つとして、夫人がヒステリックママさんではなかったことが大きいです。キーキー感情的になっちゃう夫人バージョンだと、マクベスの真なる犯罪心理が上手にうけとれない傾向にあります。キーキーな奥さんに言い負かされちゃって、とか、尻に敷かれちゃってとか。
女性が男性をコントロールできる状況ってありますよね。マクベス夫人が支配者のパワーを持つ描写がリアルでした。そしてその肝っ玉がある確固たる背景を冒頭で見せつけてくれるんですね。だからマクベスへの誘導作戦も上っ面に見えなくて納得がいった。
② そんなキーキーヒステリックとはほどとおい、思慮深く、冷静沈着な夫人。悲劇のきっかけが起きた黒幕の印象すら持つ。ここまでのレベルでRationalな夫人設定だと、キーキー夫人とは違うハードルが出てくるんですね。ストーリーがすすむにつれ、「夫人、どうやって狂うんだろう?」って思いました。同じ筋書きなのにまったくもって予測不可能であり、ここがワクワクドキドキするところです。そしてこれこそが、シェイクスピア劇の醍醐味の一つなのではないかと思います。そして、ここは筋書き自体は一切かえず、大胆なテコ入れにより、大変信憑性のある展開で、夫人は罪悪感に苛まれ、正気を失い死にました。見事すぎました。
③ ①につながるのですが、キーキー夫人じゃない、冷静夫人だったおかげで、マクベスの内に潜む「弱さ」という一番の人間らしさが、夫帰還→夫婦再開時にはきちんと見えていたんです。そりゃそうだよね、あの地獄よりも酷そうな戦争から帰ってきた戦士さんなんだから、PTSDになってて当然だよね、と。ダンカン王の殺害時のマクベスの狂気と、その後の彼の言動の狂気っぷりに納得が行きました。そうこの映画のマクベスは「病んでる」ことがはっきりわかるマクベスでした。
そういえば、どのプロダクションのマクベスでしたっけ? ここ数年で、戦争から帰って来た兵士なのだからマクベスはPTSDなんだろう、という解釈で制作したバージョンがありましたよね?
④ 撮影カメラ技術がハンパなかったと思います。 ハリウッド一大アクション映画並みのカネの使い方じゃないのかな。リクープできる自信あったんだろうな 汗)ウルトラ・ハイスピードカメラ使ってたんですけど、刀ブッさしたときの血しぶきの散り方とか、泥沼で暴れる群衆に降り掛かる泥沼とか、口から吐き出されるドロッドロの血とか、雲の合間からさす日差しに照らされる粉雪とか、生々しく美しい。
コレは使っていた様子です。このカメラを手玉にとってあの映像をとるカメラマンさんの才能と、あのシーンの数々を演出した監督さんは、本当にカッコいいと思います。
http://www.visionresearch.com/Products/High-Speed-Cameras/Phantom-Flex4K/?gclid=CjwKEAjw4s2wBRDSnr2jwZenlkgSJABvFcwQNUMSXsTiynJcsd27W3M7ynj5_IUz3V3dsLa_DVC9JBoCq0Hw_wcB
⑤ マクベスといえば、Murder でBloody はキーワードの代表例だと思うのですが、そしてそこからイメージするものの一つとして「赤色」ははずせないと思うのですが、この映画「マクベス」の「赤」の使い方、赤から連想できるイメージによる演出の数々に深い感銘を受けました。コレは、最新技術があってこそ、映画だからこその、赤色による描写であり表現。とくに、個人的にはしょっぱなのタイトル文字の衝撃的な赤色、クライマックスの戦場炎上、そしてエンドロール時の赤フィルター。映画館でエンドロール時の絵に見入ってしまうことはあまりないのですが、目がはなせなかったです
⑥ 衣装デザインが、これほどキャラクターの内情を代弁するものとは、というほどの衣装デザインでした。具体的な例をいうと、「マクベスが病んでいる」描写の大きな役割をになっていたと思います。
⑦ スコットランドおたくとしては、シーンが繰り広げられる場所と、撮影場所の比較しがちで、「ぶっ。こーれ、こんなところのはずないだろ」みたいなところがあったんですが、それは、どんな映画にも、その道のオタク様方で起きている現象だと思いますので、とくに気にしないでください
⑧ ストーリーは変わらないんですが、エッジに変えたりエッジに飛ばしたりするんです。でもそれには上記のような納得し、感銘を受けるだけの調味料となっていて、その調理の仕方に本当に感動しました。
⑨ ちなみにすでに公開前から、中学/高校では映画鑑賞時間を作っているようですし、私が行ったときも、平日昼間なのに、お客さんパンパン(ローカル映画館なのに!)。老若男女が自ら選んで観る映画として成り立っています。このマクベスは正直、レート通り15歳以上じゃないとキツイな、と色々な意味で思っていましたが、それでも日本でもNT LIVEなど、私立高校とか大学1年生とか連れてばいいんじゃないの?って思います。昨今の日本のニュースをみていても、教育を手薄にする一方な国、という印象なのですが、教育に力を入れ、投資額を増やすほど、結果的に経済が繁栄することは、結構いろんな国が証明してくれています。大学や教育機関が多く、トップのクオリティである研究機関がある場所には、大企業がこぞって、人材の確保のために、その場所へ会社を構えビジネスを拡大していく。ぜひ日本政府や各自治体も教育への投資を重要視して欲しいです。
というわけで、ネタバレもしてないのに、思いついたことを箇条書きにするだけで、こんなに長い記事になってしまいました。。。(汗)ぜひ観てください。