2014/04/30

トム・ハーディさん主演の超話題作「Locke」はすごい!すごい映画です!

イースタン・プロミス [DVD]とかDirty Pretty Thingsとか、(カンバーバッチさんが出演している→)アメイジング・グレイス [DVD] とか、最近ではPeaky Blindersで英国エンタメファンを骨抜きにしている脚本家さんスティーヴン・ナイトさんが、脚本&監督している「Locke」。ものすごい絶賛に絶賛されまくっております。
主演はトム・ハーディさん。
トレーラーはこんな感じ。

とにかくPeaky Blinders以来、スティーヴン・ナイト、ときくと、ゴキブリホイホイの匂いを嗅いだゴキブリのように吸い寄せられます。そんなわけで、鑑賞させていただきました。

【物語は…】
家族円満、仕事も充実、と順調な人生を送る建設マネージャーのアイヴァン。大規模なプロジェクト目前の夜、彼のもとにかかってきた電話により、順調だった彼の人生に異変がおこります…

【圧巻すぎる!逃げも隠れもごまかしもない、86分本当に車を運転してるだけ!】
 いやもう、びっくりしました。この映画、ロンドンへ車を走らせるトム・ハーディことアイヴァンが、あちこちに電話をしたりあちこちから電話がかかってくるだけなんです。86分。ホントにそれだけなんです。
ウソじゃないんです!!(涙) (→何に訴えてるのかわかりません…)

ホントにホントにホントに、1時間半近くもの間、大画面スクリーンでハーディさんと、ハーディさんの運転する車と、夜に高速道路を走る光景しか映りません。サービス・ステーションとかに入って休憩もしないです。(休憩なんてしてられない状況があるんですが 汗)運転しながらひっきりなしに電話で話してるだけです。

そんなわけで、写すアイテムがものすごく限られています。声の共演はあってもビジュアルでの出演者はハーディさんことアイヴァンだけです。ひたすら、制限速度を守り高速をつっぱしるアイヴァンの姿だけ。しつこいようですが、休憩もしないし、ほかの車と接触がないので、エキストラもほぼゼロに近い状態です(→ひとっこ1人いない、と書こうとして、ほかの車を運転している男性が一度きちんと映り込んだことを思い出しました…)
ビジュアル的に映画で期待されるであろうドラマティックな見せ場をそぎ落とすだけそぎ落としながらも、エンタテイメント作品としての価値を維持する…そんな作品なんです。
 
すごいのは、この単調極まりないはずの映画を86分きちんとドラマティックかつ叙情的に魅せてくれることです。しかも、映像頑張ってますよ!とかごっつい演技してますよ!オレやってますよ!! とかいったてらいが一切ない。すべてが自然なんです。映画としては前代未聞の実験的かつ挑戦的な設定であるにもかかわらず、すべてを昇華している。すごい演出とすごい演技力とすごい映像です。

【トム・ハーディさんといえば…】
 すみません(汗)ワテクシのイメージですとバットマンとかブロンソンとか欲望のバージニア、といった比較的最近の出演作のせいで、すっかりアクの強い役者さん、というイメージができておりましたが、ハーディさんの、アク取りシートですべてこし、”さっぱりしてるけど旨味はバッチリ残している肉じゃが”のような演技に、感動してしまいました。
ハーディさん扮するアイヴァンは、勤勉で誠実で、我々がよく知る人生を一生懸命、真摯に生きる男性でして。今ある幸せが自分にとってかけがえのない最高の幸せだとわかっている人なんです。ベインをやる役者さんが、このアイヴァンというキャラにとけ込み、同化していることが驚愕です。アクを取り除ける役者ってすごいです。

【というわけで…】
スムーズな日本上陸を願うがゆえに、(迷ったけど!)ハッキリ真摯に伝えておきたい…カーアクションやアクションスリラーを求めてこの映画を観ると、180%がっかりします。男のロマンを描くスリル満点の映画じゃないです。
(大文字で書いちゃったよ…汗 未来の配給会社さん、すみません)なので、いつか近い将来レンタルDVD屋さんの男のロマンコーナー(→アクション・スリラー、刑事もの、アクション・ヒーローコーナー、サスペンス)に置いてあったら、みなさまヒッソリと単館シネマ系コーナーへ移動してあげてください…。単館シネマで上映されるように心から願います!!




2014/04/22

主な出演者マーティン・フリーマンさん&ビリー・ボブ・ソーントンさん、コーエン兄弟の超名作をベースにした米TVシリーズ「Fargo/ファーゴ」が傑作な件に関する雑記

米FXTVより2014年4月15日から放送開始となったTVシリーズFargo。コーエン兄弟の制作による1996年の名作映画「Fargo」をベースとしたドラマを
マーティン・フリーマンさん、ビリー・ボブ・ソーントンさんがメインキャストとして出演するということで、放送前から大変注目を集めているTVシリーズですね。英国では、米国よりもちょっと遅れて4月20日よりChannel 4 にて放送が開始となりましてん。コレに関してアレコレ浮かんだことをメモしておきます。みなさまお楽しみにしていると思いますので、あらすじには触れませんのでご安心ください



【これまでのお話】
イヤ、正直ですね。コーエン兄弟の映画「Fargo」現役世代で、今までいわゆる「リメイク」とか「リ・イマジネーション」とか言われる作品で、少なからずイタイ目に遭って来たエンタメ・ファンは、尻込みをするか、心の準備を周到にしてから慎重に視聴に挑むか、周囲の反応を観てから視聴するか、といったリアクションだったのではないかと思います。それだけコーエン兄弟の「Fargo」はすごい作品なのです。
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身の毛もよだつ恐怖と思わずブハっと笑ってしまうユーモアが肩を並べて共存する世界。アレだけの作品を”ベース”にわざわざTVシリーズをこさえる意図と価値はあるのだろうか…。1号も制作のニュースをきいたときから眉毛がコイル巻でした。TVドラマFargoはそんななかでの、放送スタートでございます。

【Fargoとは】
超の上をいく名作「Fargo」のおかげで、すっかり「Fargo=コーエン兄弟の映画Fargo」というイメージになっている印象がUrban Dictionaryから見受けられますが(少なくとも、人生でアメリカ滞在期間のべ10日間しかない1号は、FargoときくとUrban Dictionary通り、スティーヴ・ブシェミが雪のなかでぼやきながらホニャララしている絵図をまっさきに思いうかべます)
ところがですね、第1話を観はじめてすぐに、そうだ、よくよく考えたらFargoって、ノース・ダコタの町の名前だったんだ、と実感できる内容だったんですよね。コレはコーエン兄弟の映画「Fargo」ではなく、コーエン兄弟の作り出した世界を抱えたノース・ダコタの町「Fargo」に住む人々のコーエンちっくな物語(→…こ、こわ〜〜〜い…汗)なのだ、と。そうしましたら、

Fargo is an American television anthology dark comedy-crime drama series created by Noah Hawley based on the 1996 film of the same name written and directed by the Coen brothers. (wikiさんより

の意味がストンと理解できましてん。さらにマーティン・フリーマンさんのガーディアン紙のインタビューにて

”I had no interest in being in just a TV version of the film. As Billy Bob Thornton said: "If it was called Detroit, you'd still have to want to do it."

と語っていたりChannel4でのインタビューにて

”...The tone of the TV show is set by Noah Hawley’s scripts, which obviously are influenced by the Coen brothers, and I always go on whatever script I’m working on at the time."

と語っている意味が具体的にどういうことなのか、非常にクリアにわかりました。つまり、コーエン兄弟の映画がベースだけれども、別ものとして成り立っているTVシリーズだと証明する第1話だったんですね。あちこちで高い評価を受けているのも納得です。

【オリジナルFargoを知らない人には、ちょっとネタバレ?】
現役Fargo組は冒頭一発目、クスっと笑ってしまう、粋なトリビュートになっていますね。1号は粋だ!と思いました。ちゃんと年代も変えている 笑 (オリジナルを未見の方、ここで笑いをスポイルしてしまってごめんなさい。)

【アメリカだからこそできた?自分らしい役で”Tim from the Office”の殻を破ったマーティン・フリーマン】
ええ、ですから、いまだに言われるわけです。 もうほぼお約束ギャグですよね。でもフリーマンさん自身もおっしゃってますが、第一に俳優であって、コメディアンじゃないんですよね。ですから、そんなお約束ギャグは、上手にリアクションするスキルはありこそすれ、俳優のキャリアで考えたら足かせ同然なんじゃないでしょうか。
フリーマンさん扮するレスターは、うだつのあがらない保険のセールス員なんです。成績がよくないと昇進も昇給もない。奥さんにはイヤミを言われ、デキる弟には劣等感を抱き…という、じつは超想定内な役柄なんですよね。実際コレ、The Robinsonsでやってますもんね。ところが、イギリスとは異なりneo realismな(→世の中は無法地帯。自分の身は自分で戦って守れ。詳しくはKenneth Waltz/ケネス・ウォルツ氏の人間・国家・戦争: 国際政治の3つのイメージ などをどうぞ)アメリカが舞台なおかげで、想定内のキャラなのに、今までにない想定外な言動に走ってます。ハマり役なのに、意外なんです。見事なキャスティングと言われているのは、コレか!と思いました。

【んでもって、気になるフリーマンさんのアメリカ語】
ノース・ダコタのこの辺りのアクセントって、世間のイメージと違ってあまりクセがないそうですね。(→ソースはwikiさんの映画Fargo 頁です。違っていたらどうかツッコンでやってください)そのせいでしょうか、淡々とした感じのアメリカ語でしてね。フリーマンさんは、役柄のせいなのか、アメリカ語を話しているせいなのかわからないのですが、声のトーンがいつも聞く声より高くてですね。自分に自信がなく脅えてキョドキョドしている、jumpyなその動きと、声のトーンで、あんまりクセのないアメリカ語を話すもんですから、両指を合わせながらもにょもにょ喋るウディ・アレンとか、ビフにいじめられるマーティ・マクフライが頭に……汗。マーティン・フリーマンさんのアメリカ語に慣れてない自分が悪いんです。前述のとおり、まさにハマり役でしたし、自然かつ納得のお仕事っぷりでしたから。何話かすれば慣れてきて、レスターとしてのみ見えてくるんだと思います、はい。

日本でも人気の非常に高いマーティン・フリーマンさんがご活躍するTVドラマですから、日本でもTV放送やDVD発売は近い将来に保証されている気がしてなりません。早くどこかから確定がでるとよいですよね!

2014/04/08

ジェシー・アイゼンバーグさん&ミア・ワシコウスカさん&リチャード・アイオーアデ監督The Double 観ました。


【これまでのお話】
「ハイッ!こちらIT課」のモスでおなじみのRichard Ayoade/リチャード・アイオーアデさんは、そのヒット作のおかげで日本の海外エンタメファンの方々の間では大変な空気の読めないIT天才オタクというイメージがついておるかもしれません。しかし彼は、ケンブリッジ大学出身でして、英国コメディ史に欠かせない歴史と伝統あるケンブリッジ・フットライツで座長を務め、その後も英国コメディの登竜門をトップで通り抜けているエリート中のエリートコメディアンもあります。エリート・コメディアンというのは、だいたいナニしても「そつなくこなす」以上のクオリティを最低ラインとしてキープしており、アイオーアデさんが初監督したサブマリン [DVD] はそれはもう大変な高評価を得ております。日本でも東京国際映画祭で上映されておりますね。そんなアイオーアデさんの監督2作目、ということであります。はい。

【ネタもとはドストエフスキーのThe Double】
本作のネタもとはドストエフスキーの同名小説です。コレはFetchとかDoppelganger がモチーフのお話で、主人公の会社員が心理的に病んでいきます。
日本語では二重人格 (岩波文庫)
英語のキンドルでは100円強で、別のアプリ では無料で読めます。

本作のサイモンは大企業で働く、ハタからみるとうだつのあがらない会社員です。特にコレといった特技も特徴も印象もなく、いわゆる”その他大勢”。社員カードの磁気がおかしいのか、毎朝エントランスでひっかかるのですが、警備員は絶対にサイモンを憶えられない。7年勤務する大企業で毎日顔を会わせる警備員に顔を憶えてもらえず、毎朝入館トラブルです。
勇気も自信もないので好きな女の子ハナを密かに慕っているだけ。ハナのフラットの真向かいに住み、夜な夜な望遠鏡で様子を覗き見してます…。いえ、別にエッチな動悸からではないんです。ピュアに気になってしょうがないからなのです。そしてハナのフラットのゴミ収集所へ行き、ハナが捨てるとその場にかけこみます…。いえ、別にヘンタイな動悸からではないんです。ハナが毎晩描いては破って捨てるスケッチを拾ってはパズルのように繋ぎ合わせてメモ帳に張っているのです。そうなんです。サイモンはとってもピュアなセンシティヴ・ボーイなんです。
そんなある朝、新入社員がやってきます。それはサイモンと顔も身体も声もすべてが同一のジェームズ。しかしサイモンと真逆の中身。要領の良さや社交性は天下一品、女性の引く手あまたで、会社の上司たちのお気に入り。警備員にも一発で憶えられ、「ジェームズの友達だったら信頼できるから」と滞りなく入館できる。挙げ句の果てに、密かに想い続けていたハナまでが…

【アイゼンバーグさんの起用効果抜群】
サイモンが生息するシステム環境からは、トホホっぷりや情けなさのほかに、「周囲に認知してもらえない」「自分の居場所がない」といった不安と困惑の混沌とした空気がでています。コレはレトロかつ東欧的イメージの冷たさを出す舞台美術や照明効果だけでなく、かなりキャーキャー言われちゃうような華やかなハリウッドの(若いもしくは若く見える)イケメン俳優さんが、強烈な個性派俳優さん、英国コメディファンの間でしかカルト人気扱いされてないエリート芸人、英国のTVでしかなじみのないような俳優さんたちと空間を共有している、というビジュアルにある気がします。よってたかってこの映画を面白がり、ジェシー・アイゼンバーグさんをいじりたおしている。
具体的にいうとですね
クリス・オダウドは国際的活躍ぶりをみても、現実的かなと思いますが、
クリス・モリスとティム・キィ(英国コメディファンの間でしかカルト人気扱いされてないエリート芸人)と同じフレームに(合成なしで)アイゼンバーグさんが入ってるってはっきりいってヘンです。

またアイオーアデ監督の長編デビュー作「Submarine/サブマリン」の出演者チームに次々に弄られるって奇妙すぎます。
パディ・コンシダインさんとジェマ・チャンさんの出演の仕方は強烈です。本作の重要なmetaphorともなっているのですが、ファンじゃない方は、もしかしたら、見逃しそうです。

あ、ちなみにミア・ワシコウスカさんは「シンドラーのリスト」の赤いコート来た少女的役割の印象だったので、ホントにコレはピッタンコでした。
  
【ジェシー・アイゼンバーグさんがキャスティングとなった経緯】
気になるのが、一体どうしてこの映画に出演するにいったったかです。esquire.comのブログ内にあるアイゼンバーグさんのインタビューによると
I'm not evaluating somebody. I'm only evaluating them insofar as they're interacting with me... Richard Ayoade had only made one movie. The Double was his second movie and I'd never seen a director work in the way that he works, in terms of creating an entire world, in terms of creating an aesthetic, not only visually, but also emotionally, creating an emotional aesthetic for the movie that I've never experienced before. http://www.esquire.com/blogs/culture/jesse-eisenberg-interview-the-double

だそうです。なるほどです。

一方Metro紙のアイオーアデ監督インタビューによると
I feel he’s a little like Jack Lemmon, Dustin Hoffman or James Stewart. When I think of their roles, I don’t think of enormous physical transformations  but they play very different parts. Because these characters had to be very different but look the same, he seemed really right. He’s funny without being a comic actor. He was perfect. http://metro.co.uk/2014/04/03/richard-ayoade-the-double-star-jesse-eisenberg-will-make-a-good-lex-luthor-4687420/

だそうです。なるほどです。

【というわけで…】
アイゼンバーグさんの素晴らしい演技とアイオーアデさんの的確かつ個性的な演出効果、そして見事なキャスティングによって、世の中の不条理を心理的、社会的、そして政治哲学的に映し出していたんですね。サイモンと瓜二つでも中身は真逆のジェームズが、全方位でおいしいところをすべてもっていく。原作のプロットどおり社会の勝ち組になれないサイモンによる精神的崩壊を描くと同時に、社会がどのように機能し、自分とあまり変わらない(レベルの)学歴や容姿の人が、自分よりもちやほやされて成功していくのかをかなりピンポイントで的確に、一歩引いて冷酷に描いてます。そしてこの主人公と描写の距離感が滑稽を生み出し、容赦のないダークな笑いを作っていると思います。(*このテイストはアイオーアデ監督の超得意技です)
細かいネタバレは慎みたいと思いますが、これらの観点から視聴すると、1号のような人間は非常に共感を抱き、同時に笑い、さらには泣きたくなりました。まさにアイオーアデ監督がインタビューで
The premise seemed unique to me: this character who’s so lowly and invisible. That the double appears and no one notices seems to me to be a really remarkable way to take that story. You feel that if you had something as high-concept as that happen, everyone would react to it and it would spiral out of control. But it’s more that he’s just squeezed out and disappears. That seemed like a brilliant nightmare. It feels so funny, right and sad at the same time. http://metro.co.uk/2014/04/03/richard-ayoade-the-double-star-jesse-eisenberg-will-make-a-good-lex-luthor-4687420/

だと思います!