2014/04/08

ジェシー・アイゼンバーグさん&ミア・ワシコウスカさん&リチャード・アイオーアデ監督The Double 観ました。


【これまでのお話】
「ハイッ!こちらIT課」のモスでおなじみのRichard Ayoade/リチャード・アイオーアデさんは、そのヒット作のおかげで日本の海外エンタメファンの方々の間では大変な空気の読めないIT天才オタクというイメージがついておるかもしれません。しかし彼は、ケンブリッジ大学出身でして、英国コメディ史に欠かせない歴史と伝統あるケンブリッジ・フットライツで座長を務め、その後も英国コメディの登竜門をトップで通り抜けているエリート中のエリートコメディアンもあります。エリート・コメディアンというのは、だいたいナニしても「そつなくこなす」以上のクオリティを最低ラインとしてキープしており、アイオーアデさんが初監督したサブマリン [DVD] はそれはもう大変な高評価を得ております。日本でも東京国際映画祭で上映されておりますね。そんなアイオーアデさんの監督2作目、ということであります。はい。

【ネタもとはドストエフスキーのThe Double】
本作のネタもとはドストエフスキーの同名小説です。コレはFetchとかDoppelganger がモチーフのお話で、主人公の会社員が心理的に病んでいきます。
日本語では二重人格 (岩波文庫)
英語のキンドルでは100円強で、別のアプリ では無料で読めます。

本作のサイモンは大企業で働く、ハタからみるとうだつのあがらない会社員です。特にコレといった特技も特徴も印象もなく、いわゆる”その他大勢”。社員カードの磁気がおかしいのか、毎朝エントランスでひっかかるのですが、警備員は絶対にサイモンを憶えられない。7年勤務する大企業で毎日顔を会わせる警備員に顔を憶えてもらえず、毎朝入館トラブルです。
勇気も自信もないので好きな女の子ハナを密かに慕っているだけ。ハナのフラットの真向かいに住み、夜な夜な望遠鏡で様子を覗き見してます…。いえ、別にエッチな動悸からではないんです。ピュアに気になってしょうがないからなのです。そしてハナのフラットのゴミ収集所へ行き、ハナが捨てるとその場にかけこみます…。いえ、別にヘンタイな動悸からではないんです。ハナが毎晩描いては破って捨てるスケッチを拾ってはパズルのように繋ぎ合わせてメモ帳に張っているのです。そうなんです。サイモンはとってもピュアなセンシティヴ・ボーイなんです。
そんなある朝、新入社員がやってきます。それはサイモンと顔も身体も声もすべてが同一のジェームズ。しかしサイモンと真逆の中身。要領の良さや社交性は天下一品、女性の引く手あまたで、会社の上司たちのお気に入り。警備員にも一発で憶えられ、「ジェームズの友達だったら信頼できるから」と滞りなく入館できる。挙げ句の果てに、密かに想い続けていたハナまでが…

【アイゼンバーグさんの起用効果抜群】
サイモンが生息するシステム環境からは、トホホっぷりや情けなさのほかに、「周囲に認知してもらえない」「自分の居場所がない」といった不安と困惑の混沌とした空気がでています。コレはレトロかつ東欧的イメージの冷たさを出す舞台美術や照明効果だけでなく、かなりキャーキャー言われちゃうような華やかなハリウッドの(若いもしくは若く見える)イケメン俳優さんが、強烈な個性派俳優さん、英国コメディファンの間でしかカルト人気扱いされてないエリート芸人、英国のTVでしかなじみのないような俳優さんたちと空間を共有している、というビジュアルにある気がします。よってたかってこの映画を面白がり、ジェシー・アイゼンバーグさんをいじりたおしている。
具体的にいうとですね
クリス・オダウドは国際的活躍ぶりをみても、現実的かなと思いますが、
クリス・モリスとティム・キィ(英国コメディファンの間でしかカルト人気扱いされてないエリート芸人)と同じフレームに(合成なしで)アイゼンバーグさんが入ってるってはっきりいってヘンです。

またアイオーアデ監督の長編デビュー作「Submarine/サブマリン」の出演者チームに次々に弄られるって奇妙すぎます。
パディ・コンシダインさんとジェマ・チャンさんの出演の仕方は強烈です。本作の重要なmetaphorともなっているのですが、ファンじゃない方は、もしかしたら、見逃しそうです。

あ、ちなみにミア・ワシコウスカさんは「シンドラーのリスト」の赤いコート来た少女的役割の印象だったので、ホントにコレはピッタンコでした。
  
【ジェシー・アイゼンバーグさんがキャスティングとなった経緯】
気になるのが、一体どうしてこの映画に出演するにいったったかです。esquire.comのブログ内にあるアイゼンバーグさんのインタビューによると
I'm not evaluating somebody. I'm only evaluating them insofar as they're interacting with me... Richard Ayoade had only made one movie. The Double was his second movie and I'd never seen a director work in the way that he works, in terms of creating an entire world, in terms of creating an aesthetic, not only visually, but also emotionally, creating an emotional aesthetic for the movie that I've never experienced before. http://www.esquire.com/blogs/culture/jesse-eisenberg-interview-the-double

だそうです。なるほどです。

一方Metro紙のアイオーアデ監督インタビューによると
I feel he’s a little like Jack Lemmon, Dustin Hoffman or James Stewart. When I think of their roles, I don’t think of enormous physical transformations  but they play very different parts. Because these characters had to be very different but look the same, he seemed really right. He’s funny without being a comic actor. He was perfect. http://metro.co.uk/2014/04/03/richard-ayoade-the-double-star-jesse-eisenberg-will-make-a-good-lex-luthor-4687420/

だそうです。なるほどです。

【というわけで…】
アイゼンバーグさんの素晴らしい演技とアイオーアデさんの的確かつ個性的な演出効果、そして見事なキャスティングによって、世の中の不条理を心理的、社会的、そして政治哲学的に映し出していたんですね。サイモンと瓜二つでも中身は真逆のジェームズが、全方位でおいしいところをすべてもっていく。原作のプロットどおり社会の勝ち組になれないサイモンによる精神的崩壊を描くと同時に、社会がどのように機能し、自分とあまり変わらない(レベルの)学歴や容姿の人が、自分よりもちやほやされて成功していくのかをかなりピンポイントで的確に、一歩引いて冷酷に描いてます。そしてこの主人公と描写の距離感が滑稽を生み出し、容赦のないダークな笑いを作っていると思います。(*このテイストはアイオーアデ監督の超得意技です)
細かいネタバレは慎みたいと思いますが、これらの観点から視聴すると、1号のような人間は非常に共感を抱き、同時に笑い、さらには泣きたくなりました。まさにアイオーアデ監督がインタビューで
The premise seemed unique to me: this character who’s so lowly and invisible. That the double appears and no one notices seems to me to be a really remarkable way to take that story. You feel that if you had something as high-concept as that happen, everyone would react to it and it would spiral out of control. But it’s more that he’s just squeezed out and disappears. That seemed like a brilliant nightmare. It feels so funny, right and sad at the same time. http://metro.co.uk/2014/04/03/richard-ayoade-the-double-star-jesse-eisenberg-will-make-a-good-lex-luthor-4687420/

だと思います!

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